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大阪家庭裁判所堺支部 昭和37年(家)214号 審判 1962年5月17日

国籍 スエーデン国 居所 堺市

申立人 ヨリク・サンドロ(仮名) 外一名

国籍 日本国 住所 申立人居所に同じ

事件本人 岩田太郎(仮名)

主文

申立人両名が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

本件申立の要旨は、申立人両名は、事件本人の母の承諾を得て、現に事件本人を養育しているものであるが、事件本人を申立人両名の養子とすることが、その福祉を守るために適切であると考えられるので、そのことの許可を求める、というのである。

当裁判所が申立人両名及び事件本人の母岩田まつ子を審問し申立人両名提出の各文書その他を調査した結果によると、次の実情が認められる。

(1)  申立人両名は、いずれもスエーデン国籍を有する宣教師で、一九四六年十二月十一日婚姻して以来その間に子がなかつたので、かねて養子を希望していたところ、昭和三十六年二月二十七日日本国際社会事業団と三重県中央児童相談所を通じて、日本人岩田まつ子の子岩田太郎(当家庭裁判所の昭和三十七年五月十二日付許可の審判を得て、近日中に岩田ワルター・ジョージに変更の旨届出の予定)を事実上の養子として手許に引き取つて以来、真実の親のような愛情と配慮をもつて手厚く監護養育して現在に至つたもので、将来も引続いて親として事件本人の養育に当りその能力に相応した教育を受けさせたい意向である。

(2)  事件本人は岩田まつ子を母として昭和三十年二月十二日日本で生まれ、出生後肩書本籍地において母や祖母らによつて養育されてきたもので、現に堺市に居住する未成年者たる日本人であるが、上記(1)の経緯によつて、申立人両名と事実上の養親子として申立人両名によくなつきスエーデン語も徐々に理解するようになり明るく順調に成長している。

(3)  事件本人の母岩田まつ子は、事件本人の出生の事情と申立人が現在まで養育されてきた生活状態からみて、事件本人が申立人両名の養子となることの方が、自己が養育するよりも、事件本人を順調に成長させまたその将来により多くの幸福をもたらすものと考えて、本件縁組に同意しかつこれをすすんで希望している。

(4)  申立人両名の所属するスエーデンオレブロ宣教団は、申立人両名が事件本人を養子にすることを適切と認め、これをすいせんしており、また駐日スエーデン大使館及び日本国際事業団も、この養子縁組を望ましいものとしてその実現に尽力している。

(5)  スエーデン国の養子縁組に関する法によると、「外国人はスエーデンにおいて養親になることも養子となることもできない。但しその外国人の本国において養子縁組が有効とされる場合を除く。スエーデン国人は外国において養親になることも養子となることもできない。但し内閣(申立人提出の英文翻訳によるとthe King-in-Council 又はthe King となつている)の同意(同じ翻訳によるとthe Permission 又はthe Consent となつている)を得たものは除く」と定められているところ、駐日スエーデン副領事の署名ある文書によると、本件では、すでに申立人両名が事件本人を養子とすることについて内閣の許可が与えられている。

さて上記認定の実情によつて明らかなように、本件は、養親となるべき申立人夫妻がスエーデン国人であり養子となるべき事件本人が日本に住む未成年者日本人であつて、いわゆる国際養子縁組事件であるので、先ずその管轄権について考察するに、近代文明諸国における養子縁組制度が主として子の福祉の増進を目的としていることからみて、養子となるべき事件本人が日本に住所を有する日本人であることの明らかな本件について、当家庭裁判所がその管轄権を有することは明白である。思うに、日本法上養子縁組を許可する権限をもつ国家機関は子の住所地を管轄する家庭裁判所とされており、またスエーデン法上スエーデン人と外国人との養子縁組を認めていることの当然の前提として、外国において外国法に準拠して行われる縁組を予定しているものと解せられるからである。

つぎに本件の準拠法について考察するに、わが法例第一九条第一項によると、養子縁組の要件は各当事者につきその本国法によるべきものであるから、申立人両名についてはスエーデン法が適用され(スエーデン法上本件について反致は認められていない、事件本人については日本法が適用される。ところで上記認定の実情によると、本件養子縁組は、事件本人の現在及び将来の福祉の増進に望ましいものと認められ、日本法の定める養子縁組の各要件をすべて具備していて、日本法上必要とされる家庭裁判所の許可を受けるに足る理由があり、またスエーデン法の適用に関しては、すでに内閣の許可)スエーデン人が外国において養子縁組するとき必要とされるこの許可は、上記副領事の文書によつても明らかでない点があるが、この許可をなす国家機関の種類や許可行為の性質などからみて、日本の家庭裁判所が代つてこれをなすべきものでなく、スエーデン法の定めるところによりスエーデン国の権限ある機関がこれを専決すべきものであろう。従つて日本の家庭裁判所としてはスエーデン法所定の許可のなされたことが認められる限り、スエーデンの養子縁組法のこの点に関する要件はすでに充たされたものとみるべきである)が与えられている外、スエーデン法所定の養子縁組の各要件はすべて充たしているものと認められる。

以上の次第で、本件養子縁組は、各当事者のそれぞれの本国法の定める要件を充たしており、養子となる事件本人の福祉を守りかつこれを増進するために極めて適切で望ましいものと認められるので、当家庭裁判所は本件申立を許可すべき理由あるものと認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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